支払いはどうするの?
治療を受けたご本人が支払います。
加害者側の損保会社が立て替えて払うので、通常は被害者の支払いはありません。ただし、加害者が支払いを拒否すると、治療を受けたご本人が支払うこととなります。本来は、被害者が病院で支払いを済ませて、その後に被害者が加害者側の自賠責保険、もしくは加害者に請求します。
健康保険・労災保険・自賠責保険・任意保険が使えます
通常は 自賠責保険(共済) を使い、その後に任意保険を使います。

健康保険の特徴
相互扶助的な考えの保険で、日本が世界に誇る制度です。最低限の治療を平等に受けられるので、社会主義的な保険制度といわれています。
健康保険を使った治療では、治療部位や治療方法に多くの制約があります。健康保険で交通事故の治療をするには、事前に届け出が必要です。
運営は協会けんぽ(国の独立法人)、健康保険組合(各企業)、国保(地方自治体)等と多岐にわたるので、交通事故の届け出をしたときに、各保険者で細部の対応に差があり、保険者によっては拒否されることもあります。
労災保険の特徴
労働者を保護する保険です。労働者の負傷、障害等に対して敏速かつ公正に保護することを目的としています。健康保険と違い治療部位や治療期間を制約されません。症状が良くなるまでの間、ケガをしっかり治療できるので不安を抱えずに治療に専念できます。交通事故の治療をするには、事前に届け出が必要で、通勤途中や仕事中の事故に限られます。
自賠責保険の特徴
自賠責保険ではケガをされた方が被害者、ケガをさせた方が加害者になります。
人身傷害のみの補償で上限が120万円となります。交通事故で負傷された方を、敏速かつ公正に保護するための保険で、健康保険と違い治療部位は制約されません。負傷部位が交通事故による原因であることが証明されれば、すべての部位の治療ができます。また、任意保険(自動車保険)と違い、過失割合に大きく影響されません。治療費の算定方法は労災が基準となりますが、治療単価は必要で妥当な金額とされていて、被害者の保護を優先する考えは、一般的に自賠責基準といわれています。通常は被害者が、ご自分で加害者の自賠責保険に請求します。
※自賠責保険の請求には、被害者請求と加害者請求があります。被害者請求は、被害者が加害者の自賠責保険に直接請求します。加害者請求は、被害者から請求のあった費用を(被害者の過失分を除いた金額を)加害者が被害者に支払った後に、加害者が自分の自賠責保険に請求します。
任意保険に加入していると、加害者(任意保険での加害者)側の任意保険会社が、加害者に代わって被害者に治療費を立て替えて支払ってくれます(一括対応サービス)。被害者に支払った後に、任意保険会社が加害者(任意保険に加入している顧客)の自賠責保険に請求します。これによって、任意保険会社は自社の支払い基準で支払いをして、経費を圧縮することができます。被害者保護の自賠責基準に対して任意保険基準と言われています。
任意保険基準では被害者に過失がある場合、被害者の受取額が少なくなってしまします。自賠責保険の中では、すべての被害者が平等でなければいけないとの国土交通大臣の指示で、一括対応サービスでも、自賠責保険の保障の中では、自賠責保険の過失割合で加害者側の任意保険会社が支払いをしてくれます。
任意保険(自動車保険)の特徴
任意保険では過失割合が少ない方が被害者、過失割合が多い方が加害者になります。
民間の運営する保険サービスです。自賠責保険の足りない部分を補うために加入します。被害者の自賠責保険の請求分を立て替える一括対応サービスや、各種の保険サービスが充実しています。商法上の株式会社なので、保険の支払いは損失となります。一括対応サービスでは、大量な件数の支払いを敏速にするので、各社で独自の基準が設けられていています(任意保険基準)。
※任意保険基準・・・利益を優先に運営されるので、各損保会社で基準が微妙に違います。担当者の考えや、被害者が損保会社の顧客かによっても対応に差が出ます。
※一括対応サービス・・・自賠責保険の治療費を、任意保険の損保会社が立て替える一括対応サービスでは、自賠責保険を任意保険基準で立て替えるので、自賠責保険を被害者が直接請求した場合に認められる保険給付が認められないことがあり、問題になることがしばしばあります。
一括対応サービスは、被害者の事務的な負担を軽減するためのサービスと言われますが、事実上、加害者側損保会社による、加害者請求です。損保会社は加害者側の損保会社だということを理解しましょう。被害者にも過失がある場合は、120万円を超えると、過失割合分が差し引かれます。
※ご自分に過失がある場合、人身傷害型特約があれば、過失分を補てんして治療ができます。
ご自分の保険を確認するようにしましょう。
人身傷害型特約
過失割合を心配することなく治療ができます。

被害者にも過失がある場合、自賠責基準では、過失割合が関係なく治療ができても、120万円の枠を超えて、任意保険の範囲になると、支払われたすべての費用に過失割合が適応されます。
自賠責保険の範囲を超える頃に、加害者側損保会社から、「このままいくと、損をしますよ!」と言われることがあります。こんなときに、人身傷害型特約があると、治療費から慰謝料まで、過失分を補てんしてくれます。
世帯を一緒にする家族なら全員に適応できるので、ご自分の保険を確認しましょう。
※この頃は、損保会社の損失が多いらしく、人身傷害型特約の支払い基準を見直す損保会社が増えています。
交通事故の加害者と被害者
自賠責保険と任意保険では考え方が違います。

自賠責保険での被害者
自賠責保険では、相手に過失があってケガをされた方が被害者となります。
※9割の過失があっても、自賠責保険では被害者になるので、ご自分で加害者の自賠責保険に治療費や慰謝料を請求することができます。
任意保険(自動車保険)での被害者
任意保険では過失の少ない方が被害者になります。
※交通事故ではお互いの、被害者意識、加害者意識にズレがでて、問題になることがしばしばあります。
治療部位
身体を解剖学的に区分された部分を部位と言います。

むち打ちを治すには、痛みのある部位をしっかり治療することが大切ですが、交通事故ではそれが認められないケースがあります。たとえば、頸椎捻挫で一部位の治療の場合、頸椎のみが治療対象となり、肩部や背部は痛みがあっても治療の対象とはなりません。
整形外科での治療部位の考え
全治一週間程度の軽微な外傷の場合、診断がつけば治療は湿布と鎮痛剤となるので、整形外科では治療部位に関してはあまり重要視されません。治療部位が増えることで治療費が比例して増えることもありません。
整骨院での治療部位の考え
整骨院では、負傷した部位を一部位ずつ治療して、各部位の連携を整えて治療します。痛む場所が多くあれば、痛みの場所ごとに治療をします。痛む場所が多いほど治療部位が多くなるので、治療費は治療部位に比例して増えます。
損保会社での治療部位の考え
整形外科ではさほど問題になりませんが、整骨院では治療部位が増えるごとに、被害者に対する補償が増えてしまうので、治療部位を交通事故の負傷部位として認めるか、認めないかということがしばしば問題になります。整形外科でしっかりとした部位の診断ができていれば、ほとんどの損保会社が診断された負傷部位を治療することを認めてくれます。
健康保険の治療部位の考え
健康保険を使用して交通事故の治療をした場合、健康保険の運用ルールに従って治療がされます。健康保険では治療費は3部位までしか支払われません。負傷部位が近い場合や、多く請求される部位の組み合わせは、保険を使っての治療ができなくなっています。
労災、自賠責保険の治療部位の考え
労災や自賠責保険では、負傷している部位の制約はありません。交通事故で負傷したことが証明されていれば、負傷をした部位すべてが治療の対象となります。
健康保険を使った治療
治療費を安く抑えることができます。
事前に保険者(市町村や健康保険組合等)へ届け出をすれば、 交通事故でも健康保険を使って治療することができます。届け出をした後は、通常の通院と同じように受付で窓口負担分を支払います。病院や整骨院から保険者へ請求された医療費は、保険者から当事者に請求されます。
整骨院の治療費
初診(10割)
2回目以降(10割)
1部位
2,210円
505円~610円
2部位
2,970円
1,010円~1,220円
3部位
3,426円
1,313円~1,586円
※届け出書類(第三者傷病手当願い)は各保険者に備えています。
書類の内容は、当事者で治療費を工面するので、保険者には迷惑を掛けませんといった念書と確約書になります。
双方の加害者意識、被害者意識にズレがあるときは書類を用意できないこともあります。
協会けんぽ、健康保険組合では仕事中の交通事故では使えません。
仕事中の交通事故は、労災保険、自賠責保険、任意保険を使って治療することになります。
※窓口負担は治療費の1割~3割となります。
過失割合分は当事者同士で調整します。
過失が受付窓口分より多い場合は、健康保険から差額が請求されます。
※健康保険を使っての治療は、治療部位や治療手段が制限されます。
頸椎捻挫、背部の損傷、腰痛捻挫を同時に治療することはできません。
頸椎捻挫、肩関節捻挫、腰椎捻挫を同時に治療することはできません。
近くの部位を同時に治療することはできません(近接扱い)。
治療箇所は3部位までで、4部位からは治療費が支払われません。
※健康保険を使った治療は、相互扶助的な社会保障制度なので、治療手段が制限される分、治療費が安く設定されています。費用をかけられない時は被害者を救済することになります。その反面、医療機関の仕事も増え、公的な事務費用を使って交通事故の手続きすることになるので、医療機関に受け入れられないケースがあります。
※保険者を通して請求された治療費の支払いを、加害者が拒否した場合、ご自分が負担するようになりますが、公的な意味合いの強い国民健康保健では、保険者が泣き寝入りすることもあるそうです。(国保連合会に確認しました)
健康保険を使った鍼灸治療
健康保険を使ったむち打ちの鍼灸治療はできません。
健康保険を使った鍼灸治療は、慢性的な痛みの疾患で、医師による妥当な治療手段のない疾患が適応になります。負傷からしばらくの間は、急性の負傷なので、健康保険を使った鍼灸治療はできません。負傷から三か月程度たつと、慢性的な疾患となるので、医師の同意書、もしくは診断書があると健康保険を使って鍼灸治療をすることができるようになります。
鍼灸の治療
初診
2回目以降
特定疾患(※1)
2,910円
1,300円
※窓口負担は治療費の1割~3割となります。
過失割合分は当事者同士で調整します。
過失が受付窓口分より多い場合は、健康保険から差額が請求されます。
(※1)特定疾患は、頸腕症候群、頸椎捻挫後遺症、五十肩、腰痛症、リウマチ、神経痛となります。
※むち打ち健康保険を使って鍼灸治療をする場合、診断名は頸椎捻挫後遺症になりますが、後遺症認定の診断書としての効力はありません。
労働災害保険を使った治療
治療費の負担が軽く、治療費を抑えることができます。
事前に事業を管轄する労働基準監督署へ届け出をすれば、 交通事故でも労働災害保険を使って治療することができます。健康保険のように窓口負担の支払いはありません。病院や整骨院から労働基準監督署へ請求された医療費は、労働基準監督署から当事者に請求されます。
整骨院の治療費
初診
2回目以降
1部位
3,485円
615円~1,260円
2部位
4,495円
1,230円~2,520円
3部位
5,505円
1,845円~3,780円
※届け出書類(第三者傷病手当願い)は労働基準監督署に備えています。
被害者の請求権を労働基準監督署長に譲渡するといった内容の念書、確約書です。
※窓口負担はありません。
健康保険のような、治療部位の限定はありません。
※労働災害保険が使える<むちうち>は、通勤途中か仕事中の交通事故に限られます。
医師の同意書もしくは診断書が必要になります。
自動車賠償責任保険(共済)を使った治療
自動車の人身事故の被害者を救済するための保険です。
病院や整骨院で被害者が支払いを済ませた後に、加害者側の自賠責保険に請求することも(被害者請求) 、加害者が被害者の支払いを済ませた後に、加害者が自分の自賠責保険に請求することも(加害者請求)できます。
整骨院の治療費
初診
2回目以降
1部位
4,260円
1,230円~2,520円
2部位
5,550円
2,460円~5,040円
3部位
6,840円
3,690円~7,560円
※本来は、被害者が加害者側の自賠責保険に請求します。
加害者側の自賠責保険は交通安全センターで発行する事故証明書に書かれています。
事故証明書は交通安全センターに請求すると郵送されてきます(有料)。
※ご自分の過失が9割あっても、自賠責保険では被害者になります。
自賠責保険を使って交通事故の治療もできるし、慰謝料の請求もできます。
※自賠責保険を使うための書類は、損保会社にあります。
事故証明書で確認した加害者側の損保会社に電話をすると郵送で送ってもらえます。
書き方も簡単で、書類を揃えて申請すると二か月程度で慰謝料や治療費が振り込まれます。
※すべての費用の上限は120万円になります。
※過失があって減額される場合は、被害者が加入する任意保険の人身傷害型特約を使います。
120万円(減額されると96万円)の範囲を超えても、過失分が保障されます。
任意保険を使った治療
利益優先の民間の自動車保険です。
ご自分の過失割合が低い場合、相手側の損保会社が、自賠責保険の治療費を立て替えてくれます(一括対応サービス)。 立て替えた自賠責保険の費用は立て替えた損保会社が相手側の自賠責保険に請求をします。
整骨院の治療費
初診
2回目以降
1部位
4,260円
1,230円~2,520円
2部位
5,550円
2,460円~5,040円
3部位
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※任意保険会社が自賠責保険を立て替える基準は、各損保会社によって微妙に違います。また、担当者によっても違います。
※被害者が、ご自分で整骨院にかかって、ご自分で相手の自賠責保険に請求すると認められる治療も、加害者の損保会社が一括対応すると認められないケースもあります。
※治療費の支払いを急に打ち切るケースや、このまま治療をすると<損をしますよ!>といった対応をする担当者もいて、被害者が不安になるケースも多くあります。